» Vol.89 愛のムチ

愛のムチ

 

 

 

 

新規の入所者があった。 

入所者(利用者)は転倒による骨折で入院治療を受け、

ようやく改善し退院出来たが、すぐには自宅での生活は無理と判断され

リハビリ目的で老健に入所となった。

 

入所日、80歳後半の利用者は当然のことながら緊張しているようであった。

娘さんとお孫さんが付き添ってこられ、あれこれ世話を行っていた。

入所の時は理学療養士、介護職員、看護師等が次々と利用者や家族に

確認や入所後の必要な事について説明をする。

 

診察は初めに行い、しばらくして 再度利用者を見にいった。

丁度、ベッドに座った利用者は靴を履き替えようとしていたが

なかなかうまくいかなかった。

傍らで家族と職員の話し合いは続いており、家族は利用者が靴を履けないのが

気がかりのようだった。

 

家では直ぐに手を貸していたのであろう。

暫くして靴が履けて利用者さんはホッとした様子であった。

 

私は「見ていましたよ、出来ましたね、素晴らしい、

慣れるともっとうまくなりますよ、手伝わなかったのは愛のムチですよ」

と話したら利用者は理解出来たようで嬉しそうに

「これからもよろしくお願いします」と言われた。 

 

家族にも聞こえるように話したので、「おばあちやん、やれば出来るのね」

と娘さんにも言われ愛のムチを受け入れてくれたと感じた。

このような会話が今後の介護や家族のコミュニケーションに有効になって

ほしいと願った。

 

利用者を大事にして少しでも良くしたい思いは職員皆同じであるが、

職員の言葉使いや対応は一律ではない。

優しい言葉使いの職員、少し荒い言葉使いの職員、大きい声、

高い声などいろいろである。

利用者のことを考えるとそれでよいのではと思う。

皆一律のマニュアル化した対応は利用者にとって必ずしも良くない。

バラエティーに富む対応は利用者に良い刺激となる。

 

バリアフリーの考えも同じでバリアフリーが行き過ぎれば

高齢者の機能低下を招くと思う。

利用者も我々と同じ個であり、個を尊重した対応をしたいと思う。

家族や介護職員のきめ細かいケアによる平穏で何事もない生活は

家族の安堵をもたらすが、高齢者(利用者)を肉体的、精神的機能の低下へと

導くこともある。

 

愛のムチには家族や我々介護に関わる者の勇気も必要とする。

 

 

 

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