» <第2章>Vol.20 家族の力

家族の力

 

私たちの施設では病態が老衰を主にする利用者の「看取り」を積極的に取り組む方針である。利用者がその人らしい最期を迎えられるように、そして御家族にも満足していただけるか試行錯誤している。

現在、コロナ禍で施設は長期に家族の面会は禁止となっている。終末期の状態になったとき看取りの為に全室が個室である5階のフロアーに移動してもらうことに決めた。個室料金がかかるので御家族にも了解していただくこととした。コロナ禍になってから決めたのであるが、その利点は個室であると施設の構造からご家族が他の利用者と接触なく部屋に行ける為、マスクなどの感染防御対策を行えばご家族が希望されるなら何時でも面会を叶えることが可能となるからである。施設としては個室が埋まることは経営上も利点があると考えられた。

 

しかし、いざ行うとなると多床室から個室に移す時に担当医の私は今までとは異なったことに直面することになった。それは御家族の経済的なことも考えなければならなくなったのである。御家族によって個室料金はかなりの負担である。

個室に移られてから亡くなるまで短期間なら問題ないと思われるが、なかなかそうはいかない。何とか苦痛なく過ごさせたいという思いから点滴などの苦痛のない治療は継続する。医師としては出来るだけ長く生きていただきたいと願うしご家族の願いもそうであろうと思う。

 

実際、老衰の予後判定は難しい。今日明日にも看取ることになると思っても波のように何度もリカバリーを繰り返すことを過去に何例も経験した。

老衰で食べることも出来ず点滴も困難となりもうそろそろですと告げてから2カ月ほどして亡くなられた経験もある。主治医として多床室から大部屋に移すタイミングに苦慮するのである。

経営者にお願いし看取りの利用者に限って個室をフリーにして頂いた。 

 

その後、ほとんど同時に二人の90歳前後の男性利用者を各フロアーの職員の意見も聞いて5階の個室に移動した。一人はガンに罹患しているがガンより老衰の進行が主であり日により食事摂取も出来ないので点滴を頻繁に行う状態であった。個室に移りコロナ禍の為に長期に会えなかった奥さんが面会に頻繁に来てくださった。アルコールが好きだったとノンアルコールのビールを持ってこられた。利用者は美味しいと飲まれ、又みるみる生気を取り戻し食事も少量ではあるが食べられるようになった。しっかりした会話も出来るようになり、明らかに活力を感じられた。

 

もう一人はガンの疑いがあるが、老衰傾向著明で今までの食事も出来ず誤嚥の可能性もあるので味を楽しむ程度の食事にしている。5階に移した時は1週間持つまいと思われた。

 

ベッドに横たわっている極端に痩せた利用者の姿は部屋に入ると呼吸をしているか心配になるほどであった。5階に移り息子さんご夫婦や車椅子の奥様が面会できるようになった。息子さん夫婦は個室なので音楽などを聴かせたいと思ったのであろう、カセットラジオを持ってこられた。家族と面会できるようになってから診察に行くとしっかり目を開き会話をされるようになった。

 

二人の利用者はもう長くないであろうしかし一時的なリカバリーはご家族も5階の職員も感動し他のフロアーの職員間でも話題となった。

 

ご家族は個室に移ったことを大変感謝された。私は改めて家族の力や大切さを感じたし、個室料金を免除してくれた経営者に感謝の念を持った。

 

 

 

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