» Vol.62 老健の方針と医師の診療

老健の方針と医師の診療 

 今後の老健を考える参考に

 

 

 

私は期せずして方針の異なる二つの老健に勤めた。 

二つの老健に勤務して施設の方針が医師の診療に影響することを実感した。

これはABの二つの施設を経験して気が付いたように思う。

このような経験をした医師は少ないと思い敢えて述べてみたい。

 

A、一つの施設は在宅強化型(簡単に言うと退所者の50%以上が自宅に帰れるようにすること)を目指し達成しており、看取りも行っていた。

これらは共に介護報酬を得ることが出来る。

 

B、もう一つの施設は、在宅強化型を目指すことなく、高いベッド利用率を目指し

原則として希望者はすべて受け入れ、看取りは行わない方針である。

 

Aの施設では、利用者が入院すると在宅復帰に数えられず、在宅復帰率が

低下するので、出来るだけ入院がないほうが良い。

利用者が、施設での治療可能な尿路感染症や肺炎などで重症化したとき

家族に十分説明し家族が治療を施設か、病院のどちらで行うかを

選択していただいた。

 

私が接した家族のほとんどは、施設での治療を望まれ、重症な肺炎も出来る限り

のことを行い改善に導こうと努力した。 

そして経過中に入院となった例もあったが、改善に至ったときは家族、看護師、

介護職員と喜びを共有し一体感が得られた。

多くの経験をするうちに、看護師や介護職員にも知識や経験、何よりも気構えが

得られたと思う。

 

治療中に家族との信頼関係が得られ、看取りを行った例も少なくない。

入院させまいと思う気持ちは、軽症の風邪等においても早期診断早期治療に心がけ、

丁寧に経過観察することを心掛けることになり、この考えは職員にも浸透した。

ケアマネや相談室、理学療養士も利用者の在宅復帰を目指し、現場では入院させまいとする気持ちで

職員の在宅復帰率を維持する思いは一致していた。

 

在宅復帰した利用者は、在宅支援を受け時期を見て再入所することにより

特養に行くことなく、施設との関係は密接になった。

しかし、在宅復帰が不可能な長期入所者は、退所を余儀なくされ別の老健へ行かれた。

 

所謂老健周りであるが、これらの利用者との別れは複雑な思いに駆られた。

特に利用者を引き取りたくても引き取れない、家族の切なさを感じることがあり

辛い思いとなった。

 

 

 

 

Bの施設では、医師は利用者が重症化したときに施設での治療の選択肢はなく、

入院を考える。

入院を前提にするので、重症化の懸念があっても、医師は改善させようとする

意欲に乏しくなりがちで、入院させることは施設の職員にも経営的にも

負担にならないと考えるようになる。

 

そこには家族と医師の信頼関係を重要視することなく、相談室などが家族と話し

入院先などを事務的に決めて行う傾向となる。

看取りも行わないので、老衰と思われても老健での看取りについて家族と話し合いを

積極的に行うことはない。

仕方無いが、看護師も重症化した利用者を入院させることを望む傾向になる。

 

在宅復帰は考慮しないので、入所希望者が老健の適応でなくてもベッド稼働率が

重要と考えて受け入れ、ケアマネ、相談室も入所させるために対外的な営業に

勤しむことになる。

その為、現場職員の思いとはズレが生じ、一体感は生まれにくい傾向となる。

 

施設は長期入所者が多く締める傾向となり、行き場のない利用者の救済と

自負するものの、他の老健を退所して入所する利用者もおり、他の老健の

在宅強化型の維持のために利用されているという感情や、在宅強化型による

介護報酬加算が取れないことの思いは複雑である。

また施設が、看取りを行うまで整っていない状態は、看取ってあげたいという

医療従事者の気持ちとのギャップが生じることがある。

 

二つの施設を考えると、老健施設が担うあるいは担わされている高齢化社会の現状がある。

二つの施設は、様々な事情により今に至っており、また試行錯誤の状態であるが、

両施設とも職員が利用者の為に介護、看護、リハビリを精一杯行っている様を

見ているとどちらが良いということではない。

 

この文は批判の為に記載したのではなく、老健について考える参考にして頂ければ

幸いです。

 

 

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