記憶に残っている薬疹の利用者
90歳の男性が入所された。
経過は認知症に罹った妻の介護を行っていたが、自分も物忘れがひどくなり、上京し長女の家に同居となった。
今年になり人物の誤認をすることが多くなり、ちぐはぐな会話が目立つようになり近医から薬が投与されていた。
ある日、突然、高熱が出現し、救急車で運ばれ肺炎と診断され
入院し治療により肺炎は改善した。
入院中にベッドから転落したり、点滴を自分で抜いてしまったり、
更には徘徊を認め病院ではベッド上で体幹抑制(ベット上で動かないようにする)されていたようであったが徐々に回復し、
リハビリにより歩行練習まで行うようになり、リハビリ継続の為に老健に入所された。
診療情報提供書を見て、私は困惑した。
それは食物アレルギーがあり、納豆、サバ、鶏肉、豚肉、サラダ菜で
発疹が出ると記載されており、食事をどうしようかと思ったのでした。
看護師の記載では、他の食品に対してもアレルギーがあるのか、
常に掻痒感があるようだ。
退院時の薬は、抗不安薬が3種類、睡眠薬が2種類、統合失調症の
薬が1種類、それに抗アレルギー剤が投与されていた。
入所時、家族に連れてこられた長身痩躯の老人は、診療情報提供書で得ていたイメージと異なり暗く、言葉も少なく何かにおびえているようであった。
話している間も腕や手の甲を掻いており、診察を行うとほぼ全身に皮疹を認め、かきむしった痕が認められた。
これでは睡眠も十分とることは難しいと思った。
汚い発疹で一部は湿疹様であり、第一印象で、もしかして薬疹ではと思い、翌日、
信頼している皮膚科クリニックに受診したところ、
やはり薬疹と診断され、保湿剤とステロイド軟膏を混合したものを
全身に塗ることとステロイド薬の内服を指示された。
そして可能なだけ、現在服用している薬剤を中止することも指示された。
そこで思い切ってすべての薬剤を止め、同日、軟膏を全身にぬり、
ステロイド薬の内服を開始した。
翌朝、真っ先にその利用者の部屋に行くと、昨日は久しぶりに十分眠れ、痒みもほとんど消失しているとのことであった。
顔には生気がよみがえっているようであった。
その後、食欲も出て、日に日に元気になり、活発に話しをされるようになった。
1か月も経たないうちに見違えるようになり、在宅復帰出来る
状態になった。娘さんの喜びは此方も共に喜びたくなるものであった。
食事は何を食べても問題はなく、根底に薬疹があり食事により憎悪していた為と思われた。
このような例を経験すると、改めて薬の恐ろしさを感じた。
投与した薬の副作用であることに気がつかずに、その副作用に対して
また薬剤を投与することが行われたと思われた。
この例は薬疹による掻痒感などが精神的にも大きな障害になっていたが、食物アレルギーと考えられ、しかも、利用者は認知症の為に様々な
症状を訴えることが出来なかったのであろう。
薬の効果を信じていた家族に十分説明し納得していただき、
投与されていたすべての薬剤を中止して改善したのであるが、
認知症の高齢者医療の難しさを感じた。
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