» <第2章>Vol.11 見えてきた老健の任務

見えてきた老健の任務

 

 

 介護報酬の改定もあり約1年前より施設の方針を変え積極的に利用者の在宅復帰を進めることにした。新規の入所者は入所1か月後に家族との話し合いを行うことにし、老健の意義、今後の方針についての説明を行った。また、長期に入所していた利用者の家族に対しても改定された制度の説明を行い今後、退所に向けて支援を行うことに理解を求めた。退所に関しては家族の諸事情を考慮し緩やかに行い(OUT)そして入所希望者の状態をみながら(IN) バランスを取り、ベッド稼働率を維持しながら施設の運営を本来の老健のあり方に沿うようにする方針であった。

 しかし、実際に行ってみるとなかなか思うようにはいかなかった。安定しているとは言えないINに比較してそれ以上にOUTのコントロールが予想に反して難しく退所が重なりベッド稼働率の低下をきたした。それは谷底に転げ落ちるような感じで、そこを這い上がるには多くのエネルギーを必要とした。我々が成長するために与えられた試練と受け止めようと職員に声をかけることもあった。しかし十分注意したにも関わらず約1年間で谷底に3回ほど落ちてしまうことになった。谷底にはアッいう間に落ちるが這い上がるには1から2か月を費やした。原因は特養への入所が予想をはるかに上回り次々と退所となったことや、老健をよく理解している家族は特養や有料老人ホームに早めに申し込んでおり早期の退所となったことであった。

更に入所している利用者の病状の急変が多くあり入院退所となった。改めて医療において早期診断、早期治療そして丁寧に利用者を診ることが経営上も大切であることを再認識した。ベッド稼働率低下を回復するために積極的に入所依頼を受け入れ、以前よりスピーディーに入所手続きを行った。関連病院にも出向き連携を改めてお願いした。これらの経験はその後の運営に役立っていると思う。

 

 老健が存在する地域差もあり、老健はこうだと一概に断定することは難しいが今回の経験でいくつか思うことがある。

 

 老健に依頼があった時に医師がリーダーシップを発揮して高齢者が困難な病気に罹患していても受け入れる度量が求められていると感じている。医療制度の変化もあり老健周辺の病院などの対応が高齢者特に認知症のある高齢者の医療に合致しているとは思われない。その中にあって困難な状況にある高齢者や家族の拠り所の一つとして老健が考えられ、管理医師の技量が求められていると思っている。

 

 老健の任務として在宅復帰、在宅支援を掲げているが、もう一つの大事な任務は病院等から高齢者を引き取り、病状が安定化していても在宅が不可能であれば他施設に移れるような対策をしてあげることが重要となってきていると思う。以前経験したことであるが糖尿病の利用者が病院より入所した。インスリンを日に4回投与され血糖値は安定していたにもかかわらず特養を入所希望したが引受先はなかった。家族の了解を経て、看護、介護の協力の下、日に1回のインシュリン注射を試み結局、内服薬だけでコントロールすることが出来た。これにより希望していた特養への道が開けることになった。老健では看護師の他に介護職員や理学療養士も加わり多職種で利用者を観察できることから他の医療施設と比して高齢者、認知症医療における老健の有用性を特に感じている。

 

ベッド稼働率を維持し在宅復帰を促すには”看取り”を積極的に行うことも重要な点である。

“看取り”を行うことは他の介護施設へ移ることはなくベッド稼働の安定にも有効である、何故なら“看取る”ことは在宅復帰とみなされるからである。

 

 この1年、在宅復帰を目指したことにより老健の任務が見えてきたように感じている。5段階に分類された介護報酬加算のグレードアップをめざさなければならないと同時に現実に即した明確な老健の経営方針が問われておりこの問題は老健に従事する者にとっては避けることは出来ない。

 

 老健の任務として在宅復帰、在宅支援が明示されているが、それ以外に利用者及び家族が困難な状態に陥らないような方向性の決定、そして“看取り”を行うことが重要であると考える。医療面では一般の医療施設とは異なる介護士、理学療法士、看護師が存在する老健の高齢者医療の有用性に管理医師や職員が気づき、そして医療関係者のみならず、現在および今後、高齢者の介護に関わる家族にも変化していく老健の意義に目を向け理解してほしいと願っている。

 

 

 

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