「出来るだけ行う医療」と「行わない医療」
健康保険制度のもと、出来るだけ行う医療」の考えは医療及び医学の発展の為には
必要なことです。診療している患者に対し、出来るだけのことを行い良くしたい
との思いを持つことは医師であれば当然です。しかし「出来るだけ行う医療」が
営利目的にはならないでほしい。
一方、老健の介護報酬は利用者の介護度により定額で医療費も含まれる。
老健はその範囲で運営を賄わなければならないので、医療による出費を抑える
「行わない医療」の考えが運営上必要となる。「出来るだけ行う医療」を行ったら
老健の運営は成り立たない。
血液検査も薬も自費扱いなので薬は殆どジェネリックを使う。
レントゲン撮影も行われない、血液検査は頻繁には行わず高額な検査は行わない
ようにする。医療機関から利用者の診断、治療についての診療情報提供書が
老健に届くが、病状が安定していれば積極的に検査はしない。
治療も薬剤があまりに多く副作用の心配がある場合は家族の了承を得て薬剤を中止
することはあっても新たに薬を加えることは少ない。よく使う薬剤は鎮痛薬、
便秘薬が多く、入所後、新たに治療を行う時の多くは尿路感染症と上気道感染症や
誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症である。尿路感染症と肺炎の罹患時は7日間の
介護報酬がでる。老健の医師は医療を行うにあたり前述した漠然とした枠を
意識して考えることを余儀なくされ「行わない医療」ということになる。
老健での「行わない医療」では過去の臨床経験が生かされていると思うことがある。
症状や診察で病態が推定出来ると検査を行わず早期に薬剤投与を試みるが、
治療効果が得られた時は病院での「出来るだけ行う医療」とは異なる充実感を
感じることがある。
老健の医師として利用者を出来るだけ入院させたくない思いがある。
それは経営上ベッド稼働率を保つ意味もあるが、それよりも住み慣れた施設で
治療を行い改善に導くことは高齢者である利用者の負担も少なく、ADLが
比較的維持出来るように思うからである。更に家族の負担、特に経済的負担が
増えないことも重要なことと思う。
「行わない医療」は国の医療費の節約になりもっと評価されて良いと思う。
高齢者にとって「行わない医療」は「出来るだけ行う医療」よりも有利なことがあり、常に介護士、看護師により見守られている老健ならではのことである。
「行わない医療」は「行わなくて済む医療」ともいえる。老健での経験を積んで
いくと高齢者医療は成人とは異なることを実感する。実際、高齢者に限定した
医学的なエビデンスは少ない。
嘗て勤務した病院などの医療施設での「出来るだけ行う医療」は、家族に感謝
されたものだ。それに比較し、老健の「行わない医療」の医師としての精神的負担
は大きいが、家族の感謝を感じることは少ない。老健での「行わない医療」が
医師としての実績に基づくならもっと評価されてもよいと思うのであるが、
表面には現れない土台の部分と思わざるを得ない。
介護保険制度の老健での「行わない医療」の考えは、沢山の薬を処方され入所する
高齢者を診ると健康保険制度においても医学的にも、経済的にも必要ではないか
と思う。
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