» Vol.48 印象に残っている利用者

印象に残っている利用者 ~老健での看取りを通して

 

 

 

95歳の女性で気骨あるという表現が似合うひとでした。

 

 

時々、話をすると現在の日本を憂い「何とかしなければいけない」等と言われ、

普段はあまりしゃべらないのに、調子がよいと長く話をされ、

共感を覚えることが多くあった。

食が細いので時々朝食の席にいって、どれぐらい食べられているか観察をしていたが、老衰の兆候が明らかになっていた。

 

食事が終わると、食堂から3階の部屋に行くために車椅子に乗って

エレベーター前で待っている。

その間、その利用者は必ず近くにある熱帯魚の水槽をジッと見ている。

時々、後ろにいる私に気がつくと「面白いですよね」と言われた。

 

 

その日も同じように熱帯魚を見ている姿を見た。

いつもと変わりなく元気そうであった。

昼も、車椅子で食堂のテーブルに行く途中にこちらを見て笑っていらした。

 

ところが午後3時頃、その利用者が苦しそうであると連絡を受け、

3階に駆け上がった。

苦しそうにゼロゼロ言っている。

ゼロゼロしながら「大丈夫ですよ」と言われる。

 

点滴で血管を確保して治療を開始し、しばらくして

「先生、良くなりました、ありがとうございます」と言われる。

しかし、まだ酸素吸入が必要な状態であった。

出来るだけの処置を行ってから、家族に電話をして心不全が悪化した状態であることを伝えた。

 

家族は本人が尊厳死協会に入っており、以前から

「延命治療は行わず何もしないでほしい」と希望していたので

そのようにしてほしいと言われ、もし入院するなら・・・・

「病院がよい」言われた。

 

 

 

家族の話を聞くと、最後の看取りは病院でと考えており、老健は全く考えて

いないようであった。

今までお世話をしていたので、入院を希望されないなら、老健でも

看取ることは可能であることを伝えた。

やはり老健で看取りを行っていることを知らなかったようで、電話の向こうで

ホッとした様子でぜひお願いしたいと言われた。

 

 

その日、私は所用があり早めに施設から離れなければならなかった。

離れる前に再度ベッドに行くと、酸素マスクをしながら呼吸は安らかになり

笑っておられた。

「2、3日は大丈夫かな」と思い、再度、家族に電話をすると用事があり

直ぐに来られないと言われるので、何かあれば連絡するが用事が済んだ

後でもよいと思うとお話した。

家族もそちらに行っても何も出来ないし、かえって安静が保てないので

そうしますと言われた。

 

あとから聞いたところではその夜8時頃、家族がそろってこられ、来られた家族に

その利用者は「いろいろ用事があるのだろうからもう帰りなさい」と言われた

と看護師から聞いた。

 

その後、急速に悪化し、家族が帰られて2時間後に静かに息を引きとられた。

死亡確認は他の医師により行われた。

 

私は自宅で報告を受け、臨終に自分がいなかったことが悔やまれる思いがした。

また、夜間勤務の3階の看護師は一人でありおまけに他の階も夜間のみの

パートの看護師であったので、大変であったろうなと思い陰鬱な気持となった。

次の日は休日で2日後に出勤し、朝、パソコンを見るとその人の名前の箇所は

空白となっており寂しさがこみ上げた。

 

 

 

常勤の看護師に聞くと「当直の看護師は良くやってくれた」こと、そして

「長生きされ寿命で特に苦しまなかったのでよかったのではないですか」

と言われた。 

 

その日、息子さんの奥さんとお孫さんが来られた。

おばあちゃんは「先生を信頼していました」等と言われた。私は生前に利用者と

話した内容をお聞かせすると「そうそう、それがおばあちゃんね」といわれた。

 

お孫さんは嬉しそうに聞いていた。家族が帰った後に今まで感じたことがない

胸の中にスーと風が通り過ぎた感じがした。

 

 

 

 

関連ブログ

「Vol.8  看取り その1」

「Vol.9  看取り その2」

 

 

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