» Vol.91 老健での診療は医療のオアシス

老健はオアシスか

 

 

 

この2週間ほど受け持っている利用者の状態は何時になく安定している。

全国でインフルエンザが流行っており、職員や職員の家族は罹ったが

利用者は幸いに感染者はいない。

そのようなある日、パソコンに向かってあれこれ思った。

 

老健に勤務する以前を振り返ると、複数の病院において内科全般と

専門領域の診療に長年携わった。学会や研究会など多くの会に参加したし、

参加しなければならなかった。

また学会認定医は、学会に参加することにより資格更新に必要な単位が

とれるので診療や研究で多忙な時に時間を割いて地方に行くこともあった。

口演や雑誌や本の執筆依頼なども断れなかった。

 

若い医師の研究指導や論文作成に多くの時間を費やした。

研究発表の為に学会に参加することに意欲的であったが、後年、

指導する立場となり研究者の発想、研究の進め方に興味を持ったが、

なかなか感銘を受ける臨床研究に出会わなくなったのは自分が成長したのか、

退化したのか不明である。

 

いずれにしろ1年を通し追われるように忙しかったのである。

臨床に携わっている第一線の医師は誰も同じではないかと思う。

しかし老健に勤務してからは、年齢的な影響や専門分野を離れたこともあり、

学会参加は行きたいときに行くようになった。

認定医の資格を維持する必要もなくなった。

そして施設で高齢者に対しジックリ、落ち着いて診療に従事することが

出来るようになった思いがする。

 

利用者は長い病歴の過程で各科の専門医の治療を受けているので、

診断や治療に疑問が生じれば、その都度、医学書を調べる、

そして長年、疑問に思っていたことが納得出来たことも少なくない。

また様々な医療機関から情報提供書による紹介があるので、

医療機関の臨床を老健という立場から垣間見ることが出来る。

 

感銘する医療、疑問を感じる医療などがあり、このことも刺激や勉強になり、

居ながらにして生きた教科書に遭遇する思いである。

利用者の病状が悪化した時、病院に紹介するが、

入院の有無にかかわらず返事を頂き、勉強になり、感銘することもある。

 

老健では高齢者医療の特徴と云えるが行わなければならない医療と

共に行わなくてよい医療を考えることになり今までにない臨床上の興味を感じる。

以前の生活と比較し、老健の医師としての生活や医療を考えたとき

砂漠のオアシスが頭に浮かんだ。

 

オアシスには休息のイメージがあるが、そうではなくて水が湧き、

樹木が茂っている落ち着いた環境でじっくり自分のペースで仕事が出来る

イメージである。

このような環境で新たな医師としての自分を見出し、異なった道を歩んで

得した感じさえしている。

 

職員及び利用者やご家族にとって、老健がそれぞれにとってのオアシスのような

ところであると良いと思った。

これを書いて一息ついたら胸のポケットのケータイが鳴った。

利用者が一人転倒、一人熱発したと報告があり直ぐに診察に行く。

 

どの職種もそうだと思うが医師の仕事は甘くない。

 

 

 

 

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