食事が摂れなくなった利用者へ ~老健施設介護職員の想いと行動~
8月初めの猛暑の日。
93歳の女性が長期入院後に病院からそのまま老健に入所された。
長男夫妻も一緒に来られ、退院が嬉しそうであった。
この利用者は平成23年の震災後から不安感が強くなり、
家に閉じこもりがちになった。
翌年、転倒が原因で右大腿骨頸部を骨折し手術したが、このころから認知症が進み、
意思の疎通が困難な状態であった。
食事は介助を要したが食欲は旺盛であった。
ところがある日、昼食中に1回嘔吐し、37度5分の微熱を認めた。
微熱は続き食欲は低下し食事量は少なくなった。
検査では軽度の炎症反応を認め、抗菌薬の投与を開始した。
真夏の時期で食事量が少ない日は、脱水を懸念し点滴で補液を行っていた。
食欲も回復傾向となり、検査上も異常はなくなり5日間服用した抗菌薬は中止した。
しかし、その頃から全く食べなくなってしまった。口を開けず、
食物を口に含ませても飲み込まなくなってしまった。
そのうち食欲は出るであろうと思っていたが、いっこうに食べる気配はない。
息子夫妻に好きな食べ物を持ってきてもらったが、全く食べようとしない。
スプーンで食事を口に持って行っても、無言で目をきょろきょろさせて
口を開こうとしない。いろいろと試みたが1週間たってしまい、その間、
点滴による補液は継続しなければならなかった。
お茶をゼリーにしたり、テーブルの位置を変えたり、口の中をきれいにしたり、
ベッドを移動したり、好きであった風呂に入れたり、職員が口のマッサージを
試みたり、様々なことを行った。
何も話さず静かに澄ましてきょろきょろして目が定まらないので、
集中出来ないのではと、個室で介護職員が一対一で食べさせることを試みたが
効果はなかった。
特にこれといった嚥下障害となるような原因はなく、
以前飲んでいた薬の影響を考え、もしそうであれば今は服用していなので、
やがて食べてくれるかなと思いながら、時は過ぎた。
だんだん困惑し、IVHや胃瘻等の治療が私の頭に浮かぶようになった。
食事を全く食べなくなって10日間が過ぎた頃、他の利用者のいない時間帯に
介護職員が根気よく食事介助を試みていたある日、電話で
「先生、少し食べました」と看護師の明るい声で報告があった。
この時は感激し嬉しくて、すぐに息子さんに電話をした。
味噌汁をスプーンではなくて、そのままお椀に口をつけるようにしたら、
ゴクンと飲んだのであった。
その頃、介護職員が下半身の清拭をして、オムツをはかせるときに
「人のお尻を何する」としゃべったことを聞いてこれは戻るかもしれないと思った。
その後、一進一退であったが、少しずつ食事摂取量が増し、点滴は18日間行い
中止することが出来た。
その後、食事は全量食べられ元気で相変わらずきょろきょろし時々、
「お世話になります」等と突然言葉を発し、我々を感激させた。
この例から、どの方法が良いということは断定出来なかったが、
二つのことが印象に残った。
一つは食べさせることを諦め点滴のみで経過を見ていたら、
食べることは叶わず、家族が望むなら胃瘻の造設などの治療を行っていたで
あろうという事です。
もう一つは、毎食ごとに1時間以上の時間を介護職員が対応してくれたことです。
老健では看護師、介護職員の人数は限られており、通常は介護職員が
これだけの時間を一人の利用者にかけることは大変困難であり
職員のチームワークの良さを感じた。
稀な例であるが、このような例があることを知っておくことは大切だと思う。
まずはコンサルタントにご相談下さい
先生の貴重なご経験を生かすにはまず、
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